ぼくがいわきへ行く理由

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    どうしてぼくが「いわきサイコーです!!」というイベントをすることになったか、お話しようと思います。
    まずはきっかけになった二つのイベントのことから。


    4月1日に新宿モーションで行われた「ギブ・ミー・ベジタブル」
    というライブイベントは入場料が野菜という、とてもおもしろい企画でした。

    もともとは池田社長という友達が、世の中で一般的に使われている
    「音楽で飯を食う」という言葉に疑問を持って
    「音楽で稼げなくても、うたって直接食べ物をもらえば、
    音楽で飯を食うことになるんじゃないか?」
    と素敵な勘違いをしたことがはじまりでした。
    ぼくはそのイベントの第1回にも出演させてもらって、
    お腹いっぱい野菜を食べさせてもらい
    文字通り音楽で飯を食ったわけです。

    このイベントのツイッターのアカウント宛に被災地のひとつである気仙沼の避難所から
    「深刻な野菜不足で、病気になる人も増えている」というSOSが届き、
    急遽「ギブ・ミー・ベジタブル 特別編」が開催されることになりました。
    普段は集まった野菜はその場で調理され、お客さんも出演者も一緒にいただいて、
    食べ切れなかった野菜はギャラとして出演者に配られるのですが、
    今回はすべて気仙沼の避難所に送られることになりました。

    避難所から連絡があったのが確か3月29日で、
    それから実に3日という短期間でイベントが実現し
    集まった野菜はダンボール10箱!
    それをイベント翌日、なんと主催者の池田社長たちが直接車で気仙沼まで運んでくれたのです。

    自分の家にあった野菜(ぼくがもって行ったのはブンタンだったけど・・・)が次の日には被災地に、
    そして「地震以来3週間ぶりに野菜を食べる」というよろこびの声が池田社長から届きました。
    このスピード感、ダイレクト感にぼくは感動しました。
    募金してもうれしい気持ちにはなれないけど、届いた野菜をよろこんでくれたと聞いたら
    ぼくはほんとうにうれしかった。

    ぼくのツイッターのタイムラインでは、一般人がボランティアのつもりで被災地に足を運ぶことはかえって迷惑になるというツイートが頻繁に流れていたけど
    行ってきた池田社長は「まだまだ被災地で出来ることがある」と話していました。

    行きたくても行けない場所と思い込んでいた東北が
    家の冷蔵庫と繋がった事件でした。

    ダンボール10箱は、地震の被害の大きさと比べたら、ほんとうにとても小さいかもしれないけど
    こんなささやかで不公平な支援って素晴らしいな、と思ったのです。

     
    「ギブ・ミー・ベジタブル 特別編」から3日後、
    渋谷のクロールで行われたイベントに出演しました。
    ぼくのバンド、マーガレットズロースで手伝いをしていた渋谷くんの企画する
    チャリティーイベントです。

    最初にイベントに誘ってもらったとき、どんな形で募金を集めてどこへ送るかは
    まだ決めていないという話でした。
    ぼくはチャリティーイベントにはあまり出たくないと話しました。

    チャリティーイベントで募金するのはミュージシャンではなくてお客さんです。
    ぼくは募金するタイミングも、金額も、みんなそれぞれの生活にあわせて
    自分で決めたらいいと思うので、
    あらかじめ決められた金額をライブで募金させるのはなんか変だな、と思っていたのです。

    ミュージシャンが募金するにはギャラをもらって稼がないと募金できません。
    その上で全額募金するのも自由。しないのも自由。
    それは自分で決めればいいことじゃないか!

    それに、ぼくがお客さんだったら同じアーティストのライブでも
    チャリティーライブよりだたのライブの方が単純に音楽を楽しめると思います。

    だから、やるなら収益を全額とか、何割か寄付するとあらかじめ決めるんじゃなくて
    安くてもいいからチャージはミュージシャンに、募金は募金箱をおいて、
    お客さんの自由にしてやるのがいい、とわがままを言ったのです。

    渋谷くんは普段ライブの現場で仕事をしていて、
    地震の後相次いでライブが中止・延期になった為に、
    仕事がなくなり家にこもっていたそうです。
    でも仕事がないなら自分で作ればいい!とライブを主催することを決めました。
    だからぼくのわがままも分かってくれて、そのライブではチャージはミュージシャンに、
    ドリンクはライブハウスに、募金は募金箱に、という形になったのです。

    そしてライブ当日、渋谷くんがすごく素敵な考えを聞かせてくれました。
    集まったお金を赤十字などの団体でなく、
    東北のライブハウスに直接送りたいといういうのです。
    「ギブ・ミー・ベジタブル」で感動したスピード感、ダイレクト感、ささやかで不公平な支援が
    ここでも実現するんじゃないかとわくわくしました。

    しかし渋谷くんは東北のライブハウスに行ったこともなければ、知り合いもいないといいます。
    それならぼくが世話になっているライブハウスがある福島県いわき市が
    いま大変なことになっているから話してみようということになったのです。

    club SONIC iwakiの店長、三ヶ田くんはあぶらすましというバンドをやっているぼくの友達で
    今年の2月に東北をまわったときも、いろんなところで世話になりました。
    さっそく電話でこのことを話すと、ありがたく受け取ってくれるということでした。

    それなら集まったお金をただ振り込むだけじゃなくて、直接いわきに渡しに行って
    そこでライブもするのが絶対いい!と思ったのです。

    三ヶ田くん、それを聞いて「ほんとうは地震の後すぐにでも来てもらいたかったけど、
    こっちからは声をかけづらかったんだよ」って。

    その夜のライブは燃えました。
    大変な思いをしている大勢の人たちの為に何ができるかを考えたらとても無力だけど
    ぼくの友達の為に何ができるかを考えたら、いろんな考えが次々に浮かんできました。
    すごくどきどきしていても立ってもいられないほどでした。

    翌朝すぐに三ヶ田くんと話してこのイベントの大枠が決まりました。
    「いわきサイコーです!!」というタイトルには
    みんなでいわきさ、行こう!いわき再興!という意味が込められています。
    後付だけど・・・。


    いまいわきに一番必要なものは何か。
    三ヶ田くんは言いました。
    「ものが壊れたとか、お金のこととかはがんばればどうにかなるけど
    風評被害にはがんばりようがない。」

    いわきソニックが建っている場所は福島原発から40km。
    政府の発表した屋内待機の範囲が、原発から20kmから30km。

    様々な情報が飛びかい、いわきから離れた人も少なくありません。
    それでもまだいわきに残ってお店を開ける人、
    一旦離れてまた帰って来た人。
    そんな人たちを苦しめている風評被害とはどんなものか。
    いわきで作られたものは、なんと電子部品でさえ売ることができないと聞いて驚きました。

    「外からミュージシャンが来てくれることでいわきの人もよろこぶし
    いわきでがんばってる様子を帰ってからひろめてくれたら
    それが一番いいんじゃないか。それしかない気がする」
    と三ヶ田くん。

    自分の目で見ること。
    とてもちいさいことかもしれないけど、何がほんとうのことなのか
    ぜんぜんわからなくなってしまった世の中では、
    そんなちいさな足場の上に立ってしかわからないことがあると思います。

    放射線は目には見えません。
    もしかすると風評は根拠のないものではないのかもしれません。
    ぼくも正直、原発はこわい。
    でも原発から離れることはぼくにはもっとこわいことのように思えます。

    地震の後、原発で事故が起こったとき
    西の方の知人からこっちにおいでとたくさん声をかけてもらって
    とてもうれしかったです。
    うちにはちいさい子供もいるしすごく悩みました。
    でもそのときぼくが動かなかったのは
    なんとなく直感で、いま行ってもあんまりおもしろくない気がしたから。

    東北の友達に東京においでと言ってもガソリンがなくて動けない。
    福島の原発は東京の電力をまかなうために動いていたのに
    ぼくたちはそんなことは知らないで好きなだけ電気を使って
    それで事故が起こったからって真っ先に避難できるだろうか?

    と、そんな道理も頭をかすめたけど。結局たよりになるのは直感で
    おもしろくなさそうな方には行かないというだけのことなのです。

    ぼくはもちろん避難した人を責めるつもりはありません。
    もしぼくが安全なところにいたらぼくより危険に近い友達を
    なんとしても避難させたことでしょう。
    家族を守る立場として、ぼくの判断が正しかったのかどうかはまだわかりません。

    だけどこんな狭い日本、東京にいたってこわい。離れたってこわい。
    それなら一番近くで一番こわい思いをしている人が
    毎日どんなふうに生活しているのか、どんな顔してがんばっているのか、
    泣いているのか、笑っているのか。
    それを自分の目で見たらきっと何かわかるような気がします。
    そして家に帰ってからの毎日がきっと変わっている気がするのです。

    そんなわけで「いわきさ、行こう!」と腹を決めて、
    すぐに友達に電話をかけました。
    なるべく日本のいろんなところから、いわきに来てもらいたくて。
    いままで縁のあった人も、なかった人も
    これがきっかけに広がっていく縁は、きっとこれからのいわきにとっても
    僕自身にとっても大きな意味があるはずです。

    ミュージシャンだけじゃなくていろんな職業の人にも来てほしい。
    カメラマン、ライター、映画監督・・・
    それぞれの目線で見たいわきを表現してもらえたら素晴らしい。

    お客さんにもたくさん来てほしい。
    いわきのひとはもちろん、福島県のそとからもたくさん!

    このイベントはチャリティーイベントではありません。
    ただでさえライブがたくさん中止になって、誘われるのはチャリティーライブばかりだと言うのに、
    わざわざ危険をおかしていわきにまで集まってくれるミュージシャン
    にギャラを出さないわけにはいきません。

    でもいわきソニックでは当面チャージ無料で営業を続けるということなので
    いわきとその他の被災地からのお客さんは入場無料(カンパ歓迎!)にして
    東京やその他被害の少なかった地域からのお客さんからはチャージをいただくことにしました。
    ちなみに被災地とそれ以外地域のジャッジは自己申告です!

    そしてこのイベントは普段通りいわきのお客さんからチャージをいただけるようになるまで続けるつもりです。
    そうならなければライブハウスがつぶれてしまいます。
    結局はいわきの人がいわきで働いて、いわきでお金を稼いで、いわきでお金を使うようにならなければ。
    そうなるまでにどのくらい時間がかかるかわからないけど、
    続けていくためには、外からいわきに来てくれる人たちのちからが必要です。

    いわきソニックは元映画館だった建物で、音はサイコー!!
    以前三ヶ田くんの企画で、出演が銀杏BOYZ、イースタンユース、友部正人というときにマーガレットズロースで共演させてもらったことがあったんだけど、
    あのときくらい人が来てくれたら、しびれちゃうな。


    というわけで散々能書きをたれてきましたが、このイベントはどんな考えの人でもたのしいものにしたいです。
    原発に対して反対でなければ参加してはいけない、なんてことはありません。
    実際参加する出演者の中には原発はどうでもいいけど、うたいたいから行くって人や、
    原発は必要だと思っている人もいます。
    ぼくの原発に対する考えはまた別の機会にお話しするとして、
    とにかくいろんな考えの違いや、それによって起こる摩擦まで、
    全部抱きしめる愛のあるイベントにしたいと思っています。

    動機はなんでもいいのです。
    だけどなにかわくわくするものを感じた人は一緒にいわきに行きましょう。
    これがぼくがいわきへ行く理由です。
    最後まで読んでくれてありがとうございました。
    自分も読み返してみて、不思議な縁だな〜と思います。
    自分では何もしていないような気がします。
    だけどまだまだすることがある!
    とりあえずみんな、いわきさ、行こう!!


    コメント
    いわきで待ってます!
    • もも
    • 2011/04/20 1:48 PM
    わー!ありがとうございます〜わくわくします!いわきサイコーです!!のブログの方でもいわきの様子など知らせていただけるとうれしいです。参加者の人に差し入れてもらうならどんなものがうれしいか、とか。よろしくお願いします!
    • ひらい
    • 2011/04/27 2:03 PM
    とても魅力的な記事でした!!
    また遊びに来ます!!
    ありがとうございます。。
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